ブレッドボードでモールス信号を飛ばす高周波回路の電子工作ハンズオンを考えてみました。 音を作る回路と電波を作る回路を組み立て、AMラジオで受信する体験を通じて、以下の目的を達成します。
- 実際に電波を飛ばして音を送る回路を作る
- 2種類の発振回路(音用と電波用)を実際に組み立てる
- ブレッドボードで手軽に電子工作を試せる・実験できることを知ってもらう
- 電波で信号や情報を送る仕組みと不思議を体験してもらう
- オシロスコープで「目に見えない世界」を視覚的に理解する
- 面白いと感じたらアマチュア無線技士への第一歩を踏み出してもらう
今回の回路構成
今回作る送信機は、音声信号を出すためのRC移相発振回路と、電波を作るためのコルピッツ発振回路の2種類の発振回路を組み合わせています。
- 音を作るRC移相発振回路
- 約800Hzの低周波信号(ピー音)を生成します
- 電波を作るコルピッツ発振回路
- 約1MHzのAM搬送波(高周波)を生成し、RC移相発振回路で作った音の信号を高周波に乗せて電波として発信します
詳しい原理は後半で解説します
回路図
実体回路
170ピンのミニブレッドボードで実装しました。 割と無理やりなので、400ピンのブレッドボードで実装することを推奨します。
まずは、低周波信号を作る回路を組み立て、小型スピーカーで音が鳴るかを確認しましょう。 問題なく音が鳴っていることが確認できたら、高周波回路を作りましょう。
主要パーツリスト
全て秋月電子通商で揃えることができます。
| 部品名 | 回路記号 | パーツ名 | 数 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| トランジスタ | Q1 | BC547L | 1 | RC移相発振回路用 |
| Q2 | 2SC3355 | 1 | コルピッツ発振回路用 | |
| インダクタ | L1 | 220μH | 1 | Q2コレクタ側のRFチョーク兼AM変調経路 |
| レジスター(抵抗器) | R1・R2・R4 | 10kΩ | 3 | Q1のCR移相回路用 |
| R3 | 68kΩ | 1 | Q1のベースバイアス抵抗 | |
| R5・R7 | 4.7kΩ | 2 | R5はQ1ベースバイアス、R7はQ1-Q2結合用 | |
| R6 | 470Ω | 1 | Q1のエミッタ抵抗 | |
| R8 | 2.2kΩ | 1 | Q2のベースバイアス抵抗 | |
| R9 | 47kΩ | 1 | Q2のベースバイアス抵抗 | |
| R10 | 100kΩ | 1 | Q2のベースバイアス抵抗 | |
| R11 | 1kΩ | 1 | Q2のエミッタ抵抗 | |
| キャパシタ(コンデンサ) | C2・C3・C4・C7 | 0.01μF | 4 | 積層セラミックタイプで良いです |
| C8・C9 | 470pF | 2 | Q2のタンク回路用容量分圧キャパシタ | |
| C1 | 0.1μF | 1 | 電源ラインのパスコン | |
| C10 | 10pF | 1 | Q2-アンテナ間の結合キャパシタ | |
| C6 | 10μF | 1 | Q1-Q2間の音声信号結合用 | |
| 有極性キャパシタ(極性付きコンデンサ) | C5 | 47μF | 1 | 電解コンデンサー で検索 |
| プッシュスイッチ | SW1 | 1 | モールス符号の断続送信用 | |
| ミニブレッドボード | 1 | 170穴以上のタイプ | ||
| ビニール被覆線 | 300mm | アンテナ用 | ||
| 電池ボックス | 9V積層電池 | 1 |
ブレッドボードについて慣れていない・他の工作もしたい人は400穴タイプの方が良いです
送信とチューニングの手順
回路ができたら、実際に音を発振させてAMラジオへ電波を飛ばしてみましょう。
ステップ1: 音の発生を確認する (音声モニタ)
- 電源を入れる前に配線を最終確認します。
- 電源を繋ぎ、Q1のコレクタに接続したセラミックイヤホン(圧電素子)から「ピー」という約800Hzの音が聞こえることを確認します。
ステップ2: AMラジオで受信・モールス信号の送信
- ブレッドボードのすぐ横にAMラジオを置き、周波数を1MHz付近(放送のない静かな位置)に合わせます。
- プッシュスイッチ(SW1)を押すと、AMラジオから先ほど聞聴した「ピー」という音がクリアに聞こえてきます!
- スイッチをトントンと短く・長く押して、モールス符号を送ってみましょう。
ステップ3: オシロスコープで目に見えない世界を観測する (オシロスコープがあれば)
この実験では、オシロスコープが大活躍します。オシロスコープを使うと、その瞬間どの電圧だったかを細かく見ることができ、目に見えない電波や音の正体を解明できます。
| 測定ポイント | オシロの設定 | 観測できる波形・現象 |
|---|---|---|
| Q1のコレクタ | 1ms | 耳に聞こえる音の綺麗なサイン波(約800Hz) |
| Q2のコレクタ(SW1解放中) | 500ns | 目に見えない電波の超高速な波(約1MHzの無変調搬送波) |
| Q2のコレクタ(SW1押下中) | 1ms | 1MHzの細かい電波の波が、800Hzの波の形で包まれている様子(AM変調波) |
アンテナの準備と電波法について
私たちが普段使っているスマートフォンやWi-Fi、テレビやラジオは、すべて電波法というルールによって、混信しないように整理整頓されています。本機で電波を発射する際も以下のルールを遵守してください。
- 無資格・無免許で出していい電波の強さ
- 法律により 微弱無線局 の規定範囲内に収める必要があります。
- 今回の回路での注意点
- アンテナ(AE1)として長いワイヤーを繋ぐと、電波が飛びすぎて法律に触れてしまう可能性があります。
- 実験の際は、アンテナ線は300mm程度にとどめ、受信するAMラジオをブレッドボードのすぐ横に置いて実験を行いましょう。
アンテナの準備と電波法について
私たちが普段使っているスマートフォンやWi-Fi、テレビやラジオは、すべて電波法というルールによって、混信しないように整理整頓されています。本機で電波を発射する際も以下のルールを遵守してください。
- 無資格・無免許で出していい電波の強さ
- 法律により、免許や資格なしで使えるのは 微弱無線局 の規定範囲内の出力に限られます
- 一般的にアンテナが長いほど放射効率が上がり電界強度も強くなる傾向があるため、実験ではアンテナを短く保つことが安全側の目安になります
- 今回の回路での注意点
- アンテナ(AE1)として長いワイヤーを繋ぐと、電波が飛びすぎて基準を超えてしまう可能性があります
- 実験の際は、アンテナ線は300mm程度にとどめ、受信するAMラジオをブレッドボードのすぐ横に置いて実験を行いましょう。
- 300mm程度というのは、あくまで目安として短く抑えているものであり、電界強度を実測して基準に適合していることを保証するものではありません。
- 正確に確認したい場合は、電界強度計等での実測、または総務省等の公的な情報を参照してください
さらにステップアップ:アマチュア無線技士の世界
もっと遠くまで電波を飛ばしてみたい、自分で設計した無線機で遠くの人と交信してみたいと思った方は、ぜひアマチュア無線技士の国家資格に挑戦してみましょう! 最も簡単な 第四級アマチュア無線技士 や、モールス信号が利用できる 第三級アマチュア無線技士 も難易度的に差がないと言われているのでオススメです。
資格を取ると広がる世界
- より高出力な送信機が作れる
- 保証認定を行うことで、自作した高出力の無線機から実際に電波を送信できるようになります
- 作った無線機やアンテナで交信テストができる
- 他のアマチュア無線家と交信し、レポートをもらいながら回路を改良することができます
- アマチュア無線はアンテナを自由に作って使うことができます
- 世界中・宇宙と繋がる
- 電離層(空の上にある電気の層)に電波を反射させて地球の裏側と通信したり、人工衛星や国際宇宙ステーションの宇宙飛行士と交信することもできます
回路図の記号や電気の基礎は、今回の工作で既に大きな第一歩を踏み出しています。
まとめ
ピーという音がAMラジオの向こうから聞こえてきた瞬間、目に見えない電波が確かに空間を飛んでいることを実感できます。 2つの発振回路を組み合わせるだけのシンプルな仕組みですが、音を作り、電波に乗せ、離れた場所で受信するという無線通信の基本がぎゅっと詰まったハンズオンです。ぜひブレッドボードでモールス信号を送ってみてください!
付録
回路の説明・パーツの役割について
この送信機を構成する各部品は、音を作り、電波を作り、それを乗せて飛ばすための重要な役割を担っています。
1. 音を作る(低周波発振部: RC移相発振回路)
人間が耳で聞き取れる音の信号(低周波)を作ります。エミッタ接地増幅回路(Q1)と3段のCR移相回路(C2/C3/C4, R1/R2/R4)の組み合わせです。
- Q1 (トランジスタ BC547L)
- 小さい電気を大きく増幅する部品です。大きくした電気をもう一度自分の入力に戻してやることで、勝手に振動(発振)しはじめます。
- C2・C3・C4 (各0.01μF) / R1・R2・R4 (各10kΩ)
- 3段のCR移相回路です。この値を変えると発振周波数(音の高さ)が変わります。今は1秒間に約800回振動する設定のため、ピーという高めの音になります。
- R3 (68kΩ) / R5 (4.7kΩ)
- Q1のベースバイアス抵抗です。トランジスタが正しく増幅動作する電圧に設定します。
- R6 (470Ω) / C5 (47μF)
- Q1のエミッタ側の抵抗とバイパスコンデンサです。動作を安定させる役割があります。
- C1 (0.1μF)
- 電源ラインのパスコン(バイパスコンデンサ)です。電源の揺れを吸収し、発振を安定させます。
2. 電波を作る(高周波発振部: コルピッツ発振回路)
作った音を空間に飛ばすための電波(高周波)を作ります。AMラジオで受信できる約1MHz(1000kHz)の電波を作ります。
- Q2 (トランジスタ 2SC3355)
- コルピッツ発振回路の増幅部です。ラジオの中間くらいの高い周波数(約1MHz)で発振させます。
- L1 (220μH インダクタ)
- C8・C9と共にタンク回路(共振回路)を構成し、発振周波数を決めます。
- C8・C9 (各470pF)
- コレクタ-エミッタ間、エミッタ-GND間の容量分圧キャパシタです。この分圧比で発振に必要な帰還量が決まります。
- R8 (2.2kΩ) / R9 (47kΩ) / R10 (100kΩ) / R11 (1kΩ)
- Q2のベースバイアス抵抗とエミッタ抵抗です。トランジスタが発振に適した動作点になるよう調整します。
- C7 (0.01μF)
- Q2のベース側のバイパスコンデンサです。高周波信号を安定させます。
- C10 (10pF) / AE1 (アンテナ)
- C10はQ2からアンテナ(AE1)へ電波を送り出す結合キャパシタです。AE1によって作った電波を空間に放射します。
3. 音を電波に乗せる(変調・操作部)
- SW1 (プッシュスイッチ)
- Q1で作った音をQ2側に接続するか切るかを切り替えます。これによってモールス符号の断続送信ができます。
- C6 (10μF) / R7 (4.7kΩ)
- Q1の音声信号をQ2側のバイアスラインに結合するための部品です。
なぜ電波に乗って音が届くのか? (発振とAM変調の仕組み)
なぜキャパシタと抵抗だけで波ができるのか?
トランスジスタ(Q1)の出力を、キャパシタ(C)と抵抗(R)を3段通して入力(ベース)に戻しています。 エミッタ接地増幅回路は入力に対して出力の位相が180°反転します。ここに3段のCRラダーを通してさらに180°回すことで、ループ全体で360°(正帰還)となり、バルクハウゼンの発振条件(ループゲインが1以上、位相回転が360°)を満たす周波数で自動的に発振し続け、きれいな正弦波が生まれます。
なぜAM変調で音が電波に乗るのか?
電波を作り、そこに音をのせます。SW1を開けている時はQ2は綺麗な1MHzの無変調の電波(搬送波)を飛ばし続けます。 SW1を押した時は、Q1で作った800Hzの音の電圧がC6を介してQ2のベースに流れ込みます。これにより、1MHzの電波の強さが800Hzの波に合わせて伸び縮みします。これが**AM(Amplitude Modulation: 振幅変調)**です。 AMラジオはこの振幅の伸び縮みを読み取って元の800Hzの音に復元するため、スピーカーから音が聞こえてきます。
ハンズオンなどを行う場合に考慮する点
ハンズオン運営上の工夫
- 制作時間の短縮
- パーツ数は多いものの、実体図があり、抵抗やキャパシタの数値がすぐに確認できるような工夫をすれば10分程度でできます。
- オシロスコープの活用
- オシロスコープがあると無いとでは理解が大きく違います。1MHzの波形を測定できる10MHz以上対応のオシロスコープ(1chのハンドヘルド型など)を用意すると効果的です。
- 段階的な確認オペレーション
- 音を出す(低周波) → 電波を飛ばす(高周波)と段階的に切り分けられるため、トラブルシューティングが容易です。指導者1人あたり参加者3人程度が目安
- 解説の簡素化
- ハンズオン中は回路説明はさらっと行い、詳細はフリーペーパーで調べられるようにしておくと良さそうです(回路図・回路の名称・要点を簡素にまとめたもの)
運営者が用意するもの
- 必要なパーツ類一式
- オシロスコープ
- 受信用AMラジオ
- 小型スピーカー
- 回路の内容についての資料(フリーペーパー)
※ チェック用の小型スピーカー・オシロスコープ・AMラジオは1つあれば十分そうです。