ARDF受信機製作記 2026年版

※本記事は実験的な試作の記録です。電波法の範囲内で実験を行ってください。

2026年現在、ARDF(Amateur Radio Direction Finding)用の144MHz帯AM受信機を自作しようとすると、大きな壁にぶつかります。
Webや古い書籍にある製作記事の多くが、今では入手困難な部品(2SK241やFCZコイルなど)を前提としていることが多いです。

私はデジタル回路の実装は多少経験がありますが、アナログ、ましてや高周波回路(RF)の設計経験は皆無です。
今回のようなARDF受信機であれば、そこまで品質が高くなくても問題ないだろうということで挑戦してみました。

これは、高周波のセオリーを知らない人間による、少々無謀な挑戦の記録です。ツッコミ歓迎。

GitHub プロジェクト

https://github.com/ayumu-bekki/ardf_144_receiver

コンセプトと構成

実装コンセプト

今回は以下のようなコンセプトでARDF受信機を制作します。

  • 2026年現在入手しやすい現行部品のみを使う(秋月電子通商・AliExpress)
  • 手持ちの計測器(帯域100MHzのオシロスコープなど)でなんとかする
  • 性能はともかく利用できる最低限のレベルを目指す
  • 可能であればインダクタは使わないし、作らない
  • 高周波の知識・計測器不足を、デジタルICと生成AI (Gemini 3.1 Pro) でカバーする

通常、144MHz帯の受信機はダブルスーパーヘテロダインで構成するのが定石のようです。
しかし、回路規模が大きくなると調整箇所が増え失敗のリスクが高まるため、今回は、144MHzから一気に455kHzへ落とすというシングルスーパーヘテロダインで実装することにしました。
(無線技士の試験にも出たスーパーヘテロダインをまさか実装することになるとは……)
簡易型と割り切っているので、近隣で強力なイメージ周波数が出ていないことを祈るスタイルです。

また、可能な限り簡単に実装するため、検波回路と中間周波数増幅をAMラジオ用ICに丸投げする構成としました。

部品選定と実装の戦い

RFプリアンプ:2SK241について

多くの作例でド定番となっている2SK241ですが既に製造が止まっており、2026年時点では入手困難です。代替品を探し求め、いくつかのトランジスタを検証しました。

  • 2SK544
    • ディスコン・入手困難。
  • 2SC3356
    • ディスコン・入手は可能。
  • MMBFJ310
    • ディスコン・入手は可能。
  • 2SC2714-Y
    • データシート上2SC4215-Yの方が性能が高いので未検証。
  • BF256B
    • 1MHzを境に利得が落ちる。144MHz帯では思ったようなゲインが出ず。
  • 2SC3355L
    • 20MHzを境に利得が落ちる。70MHz 5V 4db。スペックシート通りにいかない…。
  • S9018
    • 5Vで20dBほどの利得が得られた。
  • 2SC4215-Y
    • 5Vで20db S9018と特性が近くそのまま置き換え可能。
  • 2SC5066-Y
    • 5Vで20dB、9Vなら22dBと高性能。

リード付き部品ならS9018がセカンドソースが豊富で入手性が抜群で使いやすそうです。
チップ部品なら2SC5066-Yが良いが、SC-75パッケージはまるで砂粒みたいです。入力側にベースのすぐ近くに発振防止の47Ω抵抗を入れると安定しましたので、こちらを利用することにしました。

チップ部品(SMD)実装の教訓

高周波特性や小型化を考えるとチップ部品は避けて通れません。今回使おうとしているSC-70やSC-75サイズになると手ハンダは至難の業です。今まで避けてきましたが、重い腰を上げてチップ部品の手はんだに挑戦することにしました。また、今回はブレッドボードでの試作を行うため秋月電子の変換基板を活用しました。

チップ部品をはんだ付けする上でなくてはならないのがピンセット。少し高いですがチタン製のピンセットだとパーツが磁気でくっつかなくて作業効率がかなり上がります。ルーペはスマートフォンの接写で代替できます。

ミキサー (DBM)

パッシブDBMは、ダイオードの特性を揃えたりトランス手巻きの再現性に不安があったため、アクティブDBMであるNJM2594Vを使いました。4.5〜9Vで動作し、外付け部品が少なくて済むのが魅力です。

局部発振器とフィルタの試行錯誤

144MHzのLC発振回路を実装すると調整で地獄が見えているので、デジタルで制御できるプログラマブルクロックジェネレーター Si5351A を使用しました。
しかし、出力が矩形波であるため、そのままでは高調波でスプリアスだらけになります。これをLCフィルタ(LPF)を通して正弦波に整形しました。

最初はインダクタを巻きたくなかったのでRCフィルタを試しましたが効果がイマイチだったので、結局インダクタを手巻き(5mm径の透明ABS丸パイプを7mmにカットして6回巻き、約0.15μH)してLCフィルタを作りました。
LPFについて知識としては知っていましたが、実際に方形波から正弦波になった時は感動しました。
試作は手巻きでしたが、基板実装ではチップインダクタ(巻線タイプ)に置き換えました。

Si5351Aの出力は最低設定でも強力すぎるため、最終段でアッテネーターを入れて100mVpp程度に減衰させてからDBMに入力しています

中間周波数増幅・検波・音声増幅

UTC7642 (ワンチップAMラジオIC) を455kHzのIF増幅と検波に使いました。本来は中波帯(MW)放送用ですが、455kHzなら守備範囲です。
最終的に普通のイヤホンで聴くために、音声信号の増幅を NJM4556AV で増幅するようにします。

Sメーター

UTC7642のAGCフィードバック電圧をオペアンプでバッファしたものをADCで読み取るようにしました。

制御用マイコン

メイン制御のマイコンには Seeed Studio XIAO ESP32C6 を利用し、配線を簡単にするためすべてI2Cで制御するようにします。

電源

電源は9V電池(NiMH)から三端子レギュレータで5Vを作りESP32C6へ供給します。ESP32C6内蔵のDC-DCコンバータが優秀なので、そこから3.3Vを取り出してSi5351AやOLEDディスプレイへ供給しています。
XIAO ESP32C6であればリポバッテリーも使えますが、その場合は昇圧DC-DCコンバーターが必要になるのと、そこまで電力が必要ないので、9V電池を利用することにしました。

ユーザーインターフェース

ディスプレイはSSD1306 OLEDモジュール (0.91型 128x32 3.3V I2C) で周波数・RFプリアンプ有効無効・ボリュームを表示します。
電源スイッチの他、プッシュスイッチを3つ使い設定の変更ができるようにします。

抵抗とキャパシタとE系列

デジタル回路の実装では抵抗やキャパシタの値はある程度適当でも動くため、手持ちのE3系列(10, 22, 47…)程度で何とかなっていました。
しかし、今回のアナログ回路実験では細かい定数調整が必要になり、少なくともE12系列の抵抗セットがないと設計通りにいかないことを痛感しました。

テスト送信機の実装

受信機を作っても、テスト用の電波がなければ動作確認できません。そこで、受信機と同じパーツセット(ESP32C6 + Si5351A + NJM2594V)を流用して、微弱なAM送信機を実装しました。
Si5351Aでキャリア(145MHz)と変調信号(2.5kHz)を作り、DBMでキャリアリークさせて混ぜる構成です。
法に触れないよう、アンテナは最低限とし、机上の実験用微弱電波として扱います。

AM変調の実験 : https://%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%81%86%E3%81%95%E3%81%8E.com/archives/2229

今回のテスト送信機をベースに、競技会で使えるレベルのARDF送信機にするには、以下のような対応が必要です。

RFアンプ + フィルタ

AMで1.5W程度の出力を出すためにはドライバーアンプ・リニアアンプとスプリアスを除去するフィルタの実装を行う必要があります。
貧弱オシロスコープのFFTだと限界があるので、スペクトルアナライザが必要になりそうです。

変調周波数

モールス信号として一般的な600Hz程度の音声信号に変更する。
Si5351Aの下限は2.5kHzなので、ESP32のPWM+LCフィルタ等で生成が必要です。

各種制御・IDジェネレーター機能

設定の変更を行うためのUIと、時刻制御によるモールス信号(MO等)送出機能。

法的要件

JARDのスプリアス確認保証(自作機としての保証認定)を受ける必要があります。
また、モールス信号を取り扱う都合上、第3級アマチュア無線技士以上の資格も必須です。

プリント基板での実装

当初、動作検証のためにブレッドボードを使用していましたが、高周波を扱う上では限界がありました。

具体的には、目的外の周波数まで拾ってしまう、I2C通信のデジタルノイズが音声に乗る、といった問題です。ブレッドボード特有の寄生容量や配線の長さが、高周波特性を悪化させていたと考えられます。

回路構成が固まった段階で、KiCadを用いてプリント基板(PCB)を設計しました。

しかし、基板化して一発動作とはいかず、トラブルシューティングに追われることに。 局部発振器(Si5351A)からの信号にカップリングコンデンサを追加する必要があることが判明し、パターンをカッターでカットして割り込ませるという「外科手術」で対応しました。

ブレッドボードでは不安定ながらも動いていたのは、配線間の浮遊容量が偶然コンデンサの役割を果たしていたのかもしれません。高周波回路の奥深さを痛感しました。

最終的に基板をブラッシュアップしたことで、目的の周波数をピンポイントで捉え、I2Cノイズも劇的に低減できました。その後、ケースへの組み込みを考慮した第2版の基板を製作しました。

SMA端子やオーディオ出力を直接実装し、XHコネクタを表面実装タイプのPHコネクタに変更しています。 さらなる小型化を目指すなら、4層基板化や残ったリード部品の表面実装化、電解コンデンサの廃止、タクトスイッチの採用などが考えられます。

シールドケースとケースへの組み込み

高周波回路を外部ノイズから守るため、0.2mmの銅板を用いた自作シールドケースを製作しました。 設計には FreeCAD の SheetMetal ワークベンチを活用し、展開図を作成してから加工に移りました。

加工のポイント:

  • 穴あけ: 薄板はドリルだとバリが出やすいため、ポンチとプレス(ボール盤を代用)で打ち抜きました。
  • 曲げ: 手持ちのベンダーではサイズが合わず、小型万力とハンマーで少しずつ成形しました。
  • 接合: 隅の接合はロウ付けです。板の熱容量が大きくはんだごてでは太刀打ちできなかったため、ガストーチで加熱しました。

前面(操作パネル側)はシールドで覆っていませんが、基板のGNDプレーン(0.035mm銅箔)が壁として機能する設計です。RF回路を基板背面に集約し、GND面を擬似的なシールド板とする手法は、市販のハンディ機の構造を参考にしました。

本来はシールドと基板を全周で密着させるのが理想ですが、今回はほどほどのシールドで様子を見ることにします。

一旦、フィールドテストを実施してみようと思います。

受信機ブロック図

ARDF用3エレメント八木・宇田アンテナの製作

ARDF(無線方位測定)では、電波の方向を特定するために「前方後方比(F/B比)」が高いアンテナが求められます。 一般的な八木・宇田アンテナの設計例は、送信時のマッチング(VSWR)を優先してF/B比を犠牲にしているものが多いですが、今回は受信専用と割り切り、145MHz付近でF/B比を最大化(シミュレーション値で37dB)するよう独自に設計しました。

利便性を考え、アンテナと受信機はSMA端子で分離・交換できる構造にしています。

ブームは12mmのアルミ角棒で、固定部は3Dプリンタで製作しています。

反射器のエレメントが1000mmを超えており、アルミ丸棒での実装再現性を良くするため、またポータブル性を良くするために、中央で分割することにしました。 AliExpressで販売されている4mm軸用の真鍮製カップリングを利用して、精度・強度を向上しています。

分割した状態で運搬・保管ができます。誤ったエレメントを付けないよう、水性ペンキで色分けしています。

放射器にはフェライトトロイダルコアを使った電流バラン(フロートバラン)を利用することでコンパクトに収めました。 FT-37-61 に 0.4mm UEW線をバイファイラ巻きで4ターン通しています。

エレメント情報

エレメント径 4mm

エレメント 長さ Refからの距離
Ref (反射器) 1036mm 0mm
DE (放射器) 980mm 340mm
D1 (導波器) 920mm 620mm

シミュレーション値

macOSで利用できるアンテナシミュレーターがあまりなく、今回はXnec2cを利用しました。

項目
周波数 145.6MHz
VSWR 1.7
Gain 7.68dBi
F/B Ratio 37dB

まとめ

ブレッドボード上で回路を組み、なんとか受信機として動作させ、最終的にPCBで実装することができました。 高周波回路のセオリーを無視した部分も多々ありますが、2026年現在入手できる部品で、生成AIを駆使して最低限動作するものを作るという目標は達成できそうです。
実際にARDFに利用して改善を図っていきたいです。(送信機を実装するのが先かもしれませんが)

初の高周波実装を行った所感

  • チップ部品からは逃げない方が結果的に部品選定が楽
  • オシロスコープのプローブはグランド・スプリング装備にする
  • 人体アンテナ効果を防ぐため、テスト中でも受信アンテナはしっかりしたものをつける
  • アナログ回路の実験を行う場合は少なくともE12系統の抵抗とキャパシタを用意する必要がありそう
  • モジュール単位で細かく実験して統合することで手戻りを少なくできる
  • PCBにすることでノイズ的に安定した動作を得ることができる

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